WEEKEND LOVERS  〜週末の遊戯〜





深夜の東京。某オフィス街に聳えるビルの一室で。
モバイルの画面を睨み、パタパタと文字を打ち込む男が一人。
それは、珍しく髪をセットしてネクタイまで締めている弥勒。
他の者はこの時間、皆既に帰宅しているのだが、明日の締め切りを控えている弥勒は孤独に残業中。

弥勒はイライラしながらバタンとデスクを手の平で叩き、フッとため息をつく。
どうやら終わりそうにない…。

煙草に火をつけて、胸の奥まで煙を吸い込むと、
思い立ったように窓辺へと行き、ポケットから携帯を取り出した。

ピッ、ポッ、パッ…
---犬夜叉---
ピッ…

コール音を聞きながら窓の外に目を遣ると、
どこぞやの橋がブルーにライトアップされて、週末を迎える恋人達を喜ばせている。

RRRRR…

「何で出ねぇんだよ」

RRRRR…

「くそッ」

ブチッと切ろうとした時、フロアの端にあるエレベーターがスッと開く音がして…
と、同時に、携帯のコール音が途切れ「ハイ」と聞きなれた声が聞こえてきた。

「犬夜叉ぁッ…」
携帯に寄せた弥勒の唇から驚きとため息交じりの声が零れる。
電話の相手は「クククッ」と笑いを噛み殺しながら、エレベーターの中から自分に向かって歩いて来ようとしている。

「よおッ!…あれれ?今日は随分と男前だな。もしかして俺とデートするため?」
受話口から聞こえてくるふざけた声に、呆れながら答えになっていない言葉を返す。
「何で、会社にまで来るんだよ…」

「おめーが遅ぇから、迎えに来てやったんじゃねえか」
犬夜叉はヘルメットを片腕に抱えながらニヤニヤ笑っている。
「たく、しょーがねえ奴…」
互いの声が聞こえる所まで来ているのに電話越しに会話しているのが馬鹿馬鹿しくなって、
弥勒は携帯をブチンと切った。

本当は約束をボツるなら、電話で「好きだよ」とでも「愛してる」とでも言ってやるつもりだったのだが。
いざこの御目出度い顔を見てしまうと、ついつい冷たくしてしまう。
心の中にはとても温かい灯がともっているのに…

「終わらねぇんだ。朝までかかるかもしれない」
椅子にドカッと腰を下ろして再び画面を睨みつける弥勒。
犬夜叉はそんな弥勒の首に後ろから腕を回して囁く。
「いいよ。ここで待ってる♪」

「集中できないんだよ、お前がここに居ると…」
弥勒はモバイルから目を離さずに言う。
「フン、内心嬉しいくせに。何だよ、この髪…このネクタイ…気合入りまくりじゃん★」
「昼間、ホテルの取材だったんだ。当然だろ」
「へー。でも、仕事のためにこんなに甘いコロンをつけるかな?ン?」

背後から弥勒の首筋に顔を埋めて犬夜叉が満足げな笑みを零す。
ついでにネクタイを緩め、シャツのボタンを二つほど外して、ほどよく締まった胸に手を忍ばせようとする…


…が。
「アイタタタ…」
手の甲をつねられた。
「俺の仕事が終わるまでオアズケだ」
「ちぇっ…」

犬夜叉は仕方なく弥勒から離れてオフィスの中を物色し始めた。
……
先ずは、コーヒーを入れようと思って袋を開けた瞬間、コーヒーの粉を床にぶちまけ…
それから、整理して置いてあったポジをぐちゃぐちゃにした上に、指紋をべたべたとくっつけ…
挙句の果ては、椅子に掛けてあった弥勒のスーツの上着を羽織って格好つけている拍子に脇の下をビリッと破き…
……

「……」
無言で投げかけられた弥勒の視線が、痛い。
「あれ。俺って、もしかして、邪魔?」

「……」
「ゴメン…やっぱ帰るわ…」

デスクに置かれたヘルメットに伸ばしかけた手を弥勒がぎゅっと掴んだ。
「ふざけんな」
「へ…?」
「人を散々かき回しておいて、そのまま帰らせる訳にはいかないだろう?」
「み、弥勒?」

言いながら弥勒は犬夜叉の腰に手を掛けて、自分の膝の上に後ろ向きにちょこんと座らせる。
「そういう悪戯ッ子は、きちんとお仕置きしなくちゃな…」
既に緩められていたネクタイをスルスルと外すと、犬夜叉の目に当て、キュッときつめに縛り上げた。
「な、何すんだッ」

「だから、お仕置き♪」
「……」




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くぅんと鼻を鳴らし、犬耳をぴくんぴくん揺らす犬夜叉。
「良いコだ。何にも見えないと少しは大人しくなるみたいだな…」

「シ、仕事終わんなくても知らねえぞッ」
「よく言うぜ。初めからこうなるコト判ってて来たんだろうが」
弥勒は犬夜叉の上着をあっという間に剥ぎ取る。
「ひゃあッ…」

「次は、何すると思う?」
耳元で囁かれて、それでも少しは抵抗してみる。
「あ、あの訳分かんねぇ<ぱそこん>を、何とかしろよッ」
「フン。それよりか…こっちの方を先にナンとかしないと、だろ?」
弥勒は犬夜叉のズボンのジッパーをツーッと下ろしていく。

「い、ヤァッ」
既に膨らみ始めている犬夜叉の中心をムズッと掴むと、耳をクチュッと音を立てて舐める。
「お前、凄くイイ顔してるぞ♪。見えないってそんなに感じるんだ?」
「う、うるさい///」

見る見る間に溢れ出てくる蜜を指先でひゅっと拭うと、犬夜叉の腰がビクンと大きく跳ねる。
「さて、コレを、どこに、どうしようかな…」
悪戯なコトを言われ、犬夜叉の全神経が必要以上に敏感になる。
「先ずは、ココかな?」

赤く色づく唇に犬夜叉自身の蜜を塗りたくる。
「いやらしそうな唇だ…」
そう言うと、犬夜叉の首を横に向かせ、濡れて艶めく唇を飽くほど貪る。
「んッく、ン…」
口は舌を食べながら、両手は犬夜叉の胸や腹を這い回る。

……
目から入ってくるものが無い分、肌の細胞ひとつひとつが弥勒の手の動きを追いかけるように反応する。
「やッ、も…ダメッ…って」
時折、冷たく無機的な感触が掠めるのは弥勒の左腕につけられた腕時計だろう。
耳元にかかる弥勒の息が次第に色づいていく。
けれど、上半身だけで、一向に愛撫してもらえない犬夜叉のソレは弥勒の手を欲して泪を流している。
「ンン、もッ、イヤ…早、くゥ…」

「腕白坊主はもう降参か?」
フフッと愉しげに笑う弥勒の声は犬夜叉の体を余計に煽る。
「イジワルぅ…」
「仕方ないだろ?お仕置きなんだから♪」

泣いて哀願する犬夜叉のモノを無視して弥勒は滑らかな肌に指を這わせ続ける。
「アッ、ん…そんなにされたら、一人でイッちゃうから…」
自分で達しようと伸ばした犬夜叉の手を弥勒が振り払う。
「判ったから、そう焦るなって…」

弥勒は犬夜叉のズボンを脱がせ、下半身を丸出しにした。
(だけど、皮のブーツだけは「何やってんだ俺…」とか思いながらご丁寧に履かせ直しちゃったりする♪)
それから犬夜叉の腰を掴んで、ふわりとその体を持ち上げた。

「な、何ッ?」
見えない恐怖心から思わず弥勒の首にしがみつく。
「大丈夫。おにーさんの言う通りにしてくれればね♪」
「黙れこのエロ法師っ!」

突然の強気な態度に半ば呆れながら、弥勒は犬夜叉の裸体をデスクの上にそっと乗せる。
「あのですね、一応言っときますけど、私はここでは法師じゃないんですよ」
「つか、お前、法師言葉に戻ってるし…」
「あ、やべッ。…ともかく、俺はここでは、若くて格好良くて女からモテモテの、今をトキメク雑誌記者♪。分かった?」
「けっ、笑わせんな。要するにエロライターだろよッ」

「言ったな…」
弥勒は犬夜叉の足を乱暴に開かせる。
「うわッ、ン」
「そのエロライターに欲情しているのはどこのどいつだ、ン?」
「うぅ///」
恐らく見られているであろう張り詰めたままの己自身に神経が集中し、とてつもなく恥ずかしい。

「あのな、自分では何も見えないだろうけど、お前今、もの凄ーくエッチな格好してるぞ」
「んなコト言うなッ」
「ナニからナニまで、俺には丸見えだ…」
「ナニナニ言うなよ、もぉッ(泣)」

結局言い負かされて半べそをかいている犬夜叉の体に優しく触れ、デスクの奥へと座らせた。
「な、に…すんの?」
「イイことシてやる」

全身が強張っている所へ、いきなりモノの根元をぐっと掴まれる。
「ふ、あぁッ」
それから、先端をつるつると同じく濡れた滑らかなもので擦られる。
「アン、アッ、ハッ、アアァ…」
狂おしい快感が全身を貫き、犬夜叉は身をくねくねと捩じらせた。

「コレ、何だと思う?」
答える余裕も無さそうな犬夜叉に問い掛ける。
「…ッ、ンッ…ンン?」
「コレだよ、コレ…」
弥勒はそのモノで犬夜叉の先端の溝をチュクチュク往復させる。

「んァッ…ン、…んんん…イイッ」
犬夜叉は顔を赤らめて、ただ喘いでいる。
「だから、そのイイモノは何?」
「ンッ、ンッ…オレ、の…オレの…」

「オレの?…何?」
「…オレの…相棒…」
相棒、その答えに思わずプッと噴き出しながら犬夜叉の髪をくしゃくしゃと撫でてやる。

可愛いこと言いやがる。
いや待て。漢字なら「愛棒」かもな…。
「相棒の愛棒」とか?

などと弥勒が愚にもつかないコトを考えているうちに、犬夜叉はそろそろ限界に近づいていた。
「ンーッ、弥勒ぅ…も、ぉ、オレ…ダメ、そう…」
犬夜叉の乱れ姿に弥勒も触発され、難無く高みへと駆け登れそうだ。
弥勒は犬夜叉のモノと自分のモノをぴったりと寄せ付けると、己の手の中でひとつに握り締める。
そして、一緒に、優しく、強く、扱き出す。

「ハァァ、ん…も、スキ…スキッ…ダイスキッ!ミロクッ」

こいつは反則だ。
いつも、いつも。
俺が言いたくてもなかなか言えないコトを、かくもさらりと言ってくれる。
ま、可愛いのはこういう時だけだけど…。

弥勒は犬夜叉の頭に縛り付けたネクタイを片手で器用に解いてやる。
突然目隠しが取れて眩しいのか、犬夜叉は眉を寄せて目を開けられないでいる。
その両の瞼に弥勒がキスの雨を降らせると、やがてゆっくり瞳が開かれた。

「うわッ、弥勒だ…」
そこに居ることは判っているのに、目の前で優しく微笑む顔を見ると思わず間抜けた声を上げてしまう。
そんな犬夜叉に苦笑しながら、弥勒は二人を追い詰める手の動きを激しくする。

「フッ、ウッ…ハァッ、アッ、アアッ!」
ふたつのモノの鼓動がひとつになって、勢い良く迸る愛も互いを求めるように宙で交差した。
……




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犬夜叉は瞳を潤ませ、精液がくっつくのもお構い無しに、弥勒の白いワイシャツにビタッとしがみ付く。
「弥勒…。今度は大人しく待ってるから、仕事、ちゃんとやれよ…」

遠いものを見るように犬夜叉を見つめると、弥勒はその紅潮した頬に軽く口づけた。
「お前が待ってくれていると思うと、きっと良いものが書けるよ…」
そう言うと、弥勒は体や服についた液体を手際良く拭き取り、スラックスを上げ、襟を正して自席へと戻って行く。

……
情事の面影さえ残さず、再び画面に向かってパタパタと何やら必至に打ち込んでいる弥勒の、背中…。
犬夜叉にはそんな弥勒との距離が、逆に頼もしくさえ思われる。
来て良かった、と思う。
どうせ邪魔になるのは判ってたから、本当は来ていいのかどうか、かなり悩んだ。
でも、やっぱり、来て良かった…。
今度こそ、ちゃんと大人しく待っていよう。

犬夜叉は傍に投げ捨てられていた脇の下がほつれた弥勒の上着を身に纏い、接客用のソファーにごろんと横になる。
体を横たえた途端、上着から弥勒の甘いコロンがふわっと香ってきた。
フン、あの性格でこんなに甘いコロンが似合うかっつんだ。
でも…何か、気持ち、いい…
……

二時間後。
「あ〜あ。このスーツ高かったのに…」
何とか仕事をやり終えた弥勒が、ソファで熟睡する犬夜叉を見下ろしてため息をつく。
寝相の悪い犬夜叉によって、スーツの上着はヨレヨレのデレデレ状態である。
おまけに脇の下のほつれ加減もより盛大なものとなっていて、とてもじゃないが、もう使い物にならない。

「たく、しょーがねえ奴…」
と、その時。
「み、みろ……みろッ…」
犬夜叉が辛そうに眉を寄せて、吐息混じりに寝言を紡ごうとする。

「何?犬夜叉…」
弥勒も犬夜叉の顔に自分の顔を寄せて優しく問う。
犬夜叉は弥勒の声に導かれるように、その名を零した…

「…み、ミロ…の、ヴィーナス」

一瞬、犬夜叉の口元が緩んだのを認めた弥勒は、無邪気を装っている頬を思いっきりつねり上げた。
「アタタタタッ」
「下らんコト抜かしてねぇで、さっさと帰るぞ」
「へへっ、お前、自分の名前呼ばれると思ったろ?え?そうだろ?」

「お前、よっぽどお仕置きが気に入ったと見えるな」
「うげっ…」
「心配するな、帰ったら嫌というほど俺の名前を叫ばせてやるぜ。その可愛い口からな」
犬夜叉の尖った唇にちゅっとキスを与えると、
弥勒は鞄とヘルメットを手にしたまま、ソファに横たわる犬夜叉を抱え上げ、エレベーターに直行した。


橋を照らすブルーのライトが朝日に消える頃…
週末の遊戯は、本番を迎えたとか迎えていないとか。






written by 遊丸@七変化
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管理人より、ミロイヌへ。
もぉ、日記コーナーで「お仕置き」だなんて、冷や汗冷や汗。
しかし、オフィスで抜いちゃう弥勒様も弥勒様だけど、それを煽ってる犬も犬だぞ。

それにしても、現代版の犬夜叉って、一体何者?
バイクに乗るらしいね。
犬耳はちゃんとあるみたいだから、ヘルメットは特注?
バイクに乗る犬夜叉のヘルメットから飛び出す犬耳…何か笑える…。