抱きしめたい
「結局、無駄骨ですか……」
「ああ。奈落の野郎、ぜってぇいつか探し出してやる」
夕暮れの野をとぼとぼと元の村へ引き返す犬夜叉と弥勒。
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その日、旅の途中で、突然琥珀が現れた。
今度は四魂の欠片を幾つも体に仕込まれて。
強大な力を持つ琥珀に犬夜叉たちを殺させるか、それとも始末に終えなくなった琥珀を犬夜叉に殺させるか。
それが奈落の思惑だったのであろう。
珊瑚が奈落の思うままに操られている琥珀を、その失くした記憶を取り戻させようと、飛来骨を棄て、琥珀に近づいた。
でも、琥珀の体にある四魂の欠片は既に穢されていて、その瞳が色を変えることは無く…。
無情にも鎌を振り下ろす琥珀。
そして、雲母までが巻き添えとなり、琥珀はそれでもまだ刃向かって来ようとしていた。
鉄砕牙に手を掛けた犬夜叉に、血まみれになって倒れていたはずの珊瑚が飛び掛る。
「止めろ…琥珀…」
血の匂いと、哀しそうな微笑み…。
琥珀の瞳が見開かれた。
しかし、琥珀は目をそらし、暫く俯いた後、そのまま逃走した。
もしかしたら、思い出したのかもしれない。
でも、琥珀には逃げるだけで精一杯だったのであろう。
辛い現実から逃げるだけで…。
「逃がすかっ!!」
犬夜叉が後を追う。
「かごめ様と七宝は珊瑚を頼みます」
弥勒もついて行く。
琥珀は迎えに来た妖怪の背に乗り、飛び去った。
奈落の城に帰るに違いない。
奈落…絶対に許さねぇ!!
しかし、犬夜叉と弥勒は雲母が負傷しているため、自らの足に頼るほかなかった。
散々走った。
走って、走って…着衣の乱れも構わずに走りつづけた。
でも、空を飛んで行く妖怪の姿は次第に小さくなり、やがて一つの点となって、空に消えた。
「くそっ」拳で地面を殴る犬夜叉。「これ以上、あいつをのさばらせておくわけにいかねぇ!」
弥勒は地に跪いて、肩でぜいぜい荒い息をしている。
「弥勒…おい、大丈夫か?」
「……大、丈夫だ。犬夜叉、匂いは?…匂いは嗅ぎ当てられるか?」
「ああ、少しだが匂っていやがる。辿れねぇこともないとは思うが…」
「私なら平気だ。行くぞ…」
紅潮した顔を上げて、立ち上がる弥勒。
でも、足は既にふらふらだった。
「弥勒」
犬夜叉は呆然と立ちすくむ自分の脇を通り過ぎ、先に行こうとする弥勒の肩を掴んだ。
「止めとけ」
「……」
「お前、自分が人間だってこと忘れたか?」
「……忘れもするさ…」俯いたまま答える。「あんな卑怯なやり口で弄ばれてるんだ…」
「弥勒…」
「犬夜叉。私だって、本気で怒ることもある。感情的になることもある。仲間が目の前であんな目に遭って…何とも思わないわけはないだろう」
そうだ。こいつだって…。
弥勒自身だって、奈落に酷い目に遭わされている。
それも、祖父の代から、ずっと。
弥勒は生まれた時からその宿命を背負って生きてきたんだ。
親父が目の前で風穴に吸い込まれて…。
そして、自分の右手にもその風穴が穿たれていることを、一瞬たりとも忘れることはなかっただろう。
「弥勒、今回は無理だ。…そう焦るな。お前、いつも俺にそう言ってんだろ?」
「……」
無言で唇を噛む弥勒。
ふっと体の力を抜くと、弥勒は諦めたように踵を返し、もと来た道を戻って行く。
その背中を優しく押すかのように、犬夜叉が声を掛ける。
「心配するな。俺に全て任せろ」
「……」
弥勒は一瞬歩みを止めたが、振り返りはせず、そのままとぼとぼ歩き始めた…。
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空は既に茜色に色づいて、鳥たちが群を成して山のねぐらへと飛んで行く。
犬夜叉と弥勒もかごめたちの居る村へと、長い帰路を辿っている。
でも、いつの間にか犬夜叉は弥勒よりも大分前を歩いていた。
「なぁ、犬夜叉。……腹減った」
「あ?」犬夜叉が立ち止まって振り返ると、弥勒が弱々しい顔をしている。
「…腹減った。何か食いもん持ってねぇか?」
「あのな、俺が持ってるわけねぇだろ。かごめじゃねぇんだから」
そう答えると、再びすたすたと歩き出す。
「村に帰ったら何食おうか?美味い沢庵と、白い飯があればそれでいいよな。…あー、ホントに腹減ってきた…」
弥勒はへとへとの体に妄想を掛け、何とか足を前へ運んでいる。
「それから、風呂に入りてぇ。星空見上げながら。あ、酒もあれば最高だな」
犬夜叉は弥勒の戯言を無視して歩きつづけている。
やっぱり、さっき俺が無視したのが悪かったのか?…弥勒は思う。
あいつが折角優しい言葉をくれたのに、振り返りもしなかったから。
『心配するな。俺に全て任せろ』
…嬉しかった。
犬夜叉が傍にいて、そんな言葉を掛けてくれることが、嬉しかった。
だから、とことん甘えてしまいそうで…振り向けなかった。
体力も消耗し尽くして、ふらふらだったから。
いや、今も…本当はぎりぎり。
「なぁ、犬夜叉…」
「っ。ほざいてねぇでさっさと歩け…」
と言いながら振り向くと、弥勒の瞼が閉じられている。
「!?」
弥勒の体が僅かに左右に揺れた。
「!!」
前のめりに倒れようとする弥勒を、犬夜叉の両腕が抱きとめた。
……
犬夜叉の胸に顔を埋めたまま、弥勒は動かない。
……
「弥勒。…弥勒? おい、しっかりしろ」
眉を寄せ、弥勒が我に返った。
目を開けると、真っ先に犬夜叉の深紅の衣が目に入る。
「!!」
「気づいたか?」
「すまない。朝から何も食ってねぇから…」
ふぅと、ため息をつくと、犬夜叉は弥勒の前に背中を向けてしゃがみ込んだ。
「?」
「早く村に帰りたいんだろ?俺に背負われた方が速いぜ」
「……」
「ほら、早くしねぇか」
「…いや、いい…」
犬夜叉は振り向いて弥勒の顔を見上げた。
「何照れてんだ?おめぇは…」
「……」
「あーもういい!知らねぇからな!!おめぇがここで野垂れ死んだって、俺は知らねぇ!!」
ぷんぷんと歩いて行ってしまう犬夜叉。
その後を再びとろとろと歩く弥勒。
「犬夜叉…」
「……な、ん、な、ん、だっ。さっきから!!」
「…歩くの、速い」
「早く帰りたいんだろが!ったく、負ぶさるのが嫌なら少しは速く歩け!!」
「誰も、早く帰りたいとは、言ってないが…」
「……!……」
「たまには、肩を並べて歩かないか…?」
目を円くする犬夜叉。頬が僅かに赤い。
先刻、弥勒を抱きとめた温もりが、再び熱を帯びてくる…。
弱々しく微笑むあいつ。
抱きしめたい 溢れるほどに
君への想いが 込みあげてく
どんな時も 君と肩をならべて 歩いていける
そうしているうちに、弥勒が犬夜叉の傍まで追いついて来る。
「けっ!腹減って、倒れそうになった奴が強がり言いやがって!」
そう言うと、犬夜叉は弥勒の手を取った。
「!?」
「疲れてんだろ」
ぶっきらぼうにそう言い放ち、勝手に歩き出す犬夜叉。
握られた手に、少しだけ力を預けて、弥勒も犬夜叉と共に歩く。
ぶすっと黙り込んでいる犬夜叉に、弥勒はきゅっとその手を握り返した。
「!?」
ありがとう……
もしも 君が さみしい時には
いつも 僕が そばにいるから
end
written by 遊丸@七変化
ありかな?こんなの。
思いつきで一気に書き殴ってしまった駄作。
攻めの弥勒様もいいけど、か弱〜いみろちゃんも捨て難いのよ。
あと、毒とか薬とかにやられちゃった弥勒様もv。
ホント色々と妄想を膨らませてくれるコンビだねぇ、お二人。
どこまで突っ走るのやら…。
最後に。
ミスチルさん、ゴメンナサイ。