炎 ほ
の
お
弥勒はほこほこと立ち上る湯気を胸に吸い込みながら、木々に囲まれた空を見上げた。
森の奥に見つけた秘湯。
つかの間の休息。
肩まで湯に浸かり、首を回して疲れを癒している。
最近、どうも疲れがたまっているようだ。
一人で奈落を探す旅をしていた弥勒が、犬夜叉一行に出会い、仲間となり、やがてそこに珊瑚が加わった。
助け合う仲間は心強いが、時として逆に悩みの種となることもあり得る。
弥勒は少し離れたところで半身浴をしている犬夜叉のむすっとした顔をちらりと盗み見た。
犬夜叉のいらいらの原因は、自分に抱えられて湯に浮んでいる七宝だろうか…。
小さい七宝は、湯の底に足が届かず、弥勒の腕にしがみ付いている。
白くしなやかな弥勒の腕の中で「キャハキャハ」と湯をはね飛ばしてはしゃぐ七宝に、とうとう犬夜叉が怒鳴った。
「おい、七宝!いい加減にしろっ!!」
「何じゃい!何捻くれてんじゃい!お前もおらに相手して欲しいのか?」
「けっ。んなわけあるかよ、ばーか」
「それとも、ナニか?犬夜叉…お前、もしかして妬いてるのか?」
「なっ……」
「お前、弥勒をおらに取られて悔しいんじゃろ!?」
「……」
ぷるぷると拳を震わせる犬夜叉。
「ガキは、さっさと、寝ろっつんだっ!!」
ガチンッ★
ぷくうっと七宝の頭にこぶができた。
「弥勒ぅ〜」
目に涙を浮かべて、七宝は弥勒の胸に更にびたーっと貼り付く。
弥勒は苦笑しながらも、半べそをかく七宝の背中を優しく撫でてやる。
「犬夜叉、もう少し大人になりなさい。大人に…」
法師らしい悟ったような穏やかな声で弥勒が言う。
「…大人ってのは、誰にでも優しいってことか…?」
ぼそっと言う犬夜叉の視線を辿って、弥勒は片目を僅かに細めた。
「……」
犬夜叉の視線のその先…
ざわっと夜風に揺れた木々の向こうには、一足先に湯に入ったかごめと珊瑚が休んでいる。
「珊瑚ちゃん、何か今日ご機嫌じゃない?」
かごめが珊瑚の顔をのぞいてにやにや問い掛けた。
「そ、そんなこと無いよ…」
ぽっと頬を赤くする珊瑚を見て、ふーんと訳ありげに頷くかごめ。
「何かあったでしょ?弥勒さまと…」
珊瑚の顔はいよいよ真っ赤になる。
「ねぇ、何があったの?弥勒さまと…」
「や、やだなぁ…。そんな…」
両手で頬を覆うが、嬉しそうな気配は隠せない。
それは昨日の朝のこと。
犬夜叉一行が泊っていた旅籠に、妖怪退治の依頼が来た。
話に依ると、隣村に夜な夜な得体の知れぬ物の怪が現れ、畑の作物を食い荒らすのだと言う。
人は襲わないと言うし、どうやら四魂のかけらも絡んでいない様子なので、
弥勒と珊瑚だけが出向くことに話がまとまった。
「ざけんなよ。最近奈落も仕掛けて来ねえから、体がなまってしょうがねえんだ!俺も行く!!」
と突っかかって来る犬夜叉を、弥勒は錫杖で押さえ付ける。
「犬夜叉。今宵が朔の夜であること、よもや忘れたわけではあるまい?」
そう言うと弥勒は手早く戸を閉め、封印の札を戸に貼り付けた。
「おい!待て、弥勒!日が暮れるまでには俺様が片付けてやるっつってんだ!!おいっ!弥勒っ!!……」
戸の内側から叫ぶ声を無視して、弥勒と珊瑚は隣村へ向かった。
夜になり、待ち伏せしていた物の怪が現れ、いざ捕まえてみると、それはただの大猿だった。
日照り続きだった夏の影響で、山の木の実が底をついたために、村の畑を荒らしたのであろう。
「では、お代も頂きましたし、私達は元の旅籠へ戻りましょうか、珊瑚?」
「いえいえ、お食事とお床の用意が出来て御座います。法師さま、どうぞ今日はごゆっくりお泊りになって下され」
と村の長者。
「いや、しかし……」
断わろうとする弥勒を珊瑚が遮る。
「折角だし、お言葉に甘えさせてもらおうよ、法師さま。夜道は危険だよ」
「うむ…しかし…」
「それに、犬夜叉とかごめちゃんは外に出ないように言ってあるから、心配無いよ。お札もちゃんと貼ったしね」
その点は心配無いのだが…
結局、弥勒は長者と珊瑚の提案を聞き入れた。
聞き入れぬ正統な理由はどこにも見当たらなかった。
普段、えろ法師・生臭坊主の異名を持つ弥勒ならばなおのこと、断わるのは不自然というもの。
かくして、弥勒と珊瑚は二人きりで一夜を過ごすこととなったのである。
立ち上る湯気の中。
七宝は泣き疲れたのか、弥勒の腕の中で子供らしい寝息を立てている。
「おい、弥勒。お前と珊瑚、何か変だよな?」
犬夜叉のいらいらの原因はやはり七宝などではなく…。
「そうですか?」例の如く、とぼけ顔の弥勒。
「今日帰って来てから、珊瑚はお前を避けているみてえだった。でも、その割にはやけに上機嫌だ」
「何かいいことでもあったんでしょうかねえ?」まるで他人事のように答える弥勒。
「すっとぼけるなっ!!何があったんだよ、二人きりで…」
金の瞳を見開いて弥勒を見つめる犬夜叉。
澄んだその瞳は、無垢で、穢れを知らない…。
弥勒も犬夜叉の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
そして、ため息を零すように言葉を吐く。
「犬夜叉は、かごめさまとどこまでいっているのです?」
不意な切り返しを喰らい、犬夜叉は慌てふためく。
「ど、どこまでいってるって…」
「まだ何もしていないのですか?」
「……」
犬耳の内側まで真っ赤になって顔を伏せる犬夜叉。
何て答えたら良いのか解からない。
いつの間にか、心の中はかごめのことより……
「抱いてしまいなさい」
その一言に犬夜叉がはっと顔を上げる。
一瞬、言っている意味がよく解からなかった。
「抱いてしまいなさい」
呆然と瞳を漂わせている犬夜叉に、弥勒がもう一度言った。
「な、何で、だよ…?」
「そうすれば、すべてがまるく収まるのです」
その時、犬夜叉の脳裏にふとある予感が過ぎった。
「ま、まさか…弥勒、お前、珊瑚を…!?」
「…抱いたとして、何が悪いのです?」
金の瞳が悲しい色を湛えて、濁っていく…。
その頃。
湯から少し離れた木々の間で、焚き火が燃えている。
かごめと珊瑚がその焚き火を見つめながら、語り合っていた。
「へぇ…あの弥勒さまがねぇ…」
二人の女は顔を合わせてくすっと笑った。
「妖怪」退治を終えた弥勒と珊瑚は、長者の屋敷に案内された。
食事を終え、漆塗りの雅な椀や小鉢を数人の小間使いが下げて行くと、次に、侍女が床を敷きにやって来た。
床の間の向こうの部屋に、布団を二組並べて敷いている。
お茶をすすりながら、隣に正座している珊瑚の顔をちらりと見ると、どことなくそわそわしているようだ。
やれやれ、先手を打つしかないか…。
侍女が布団を敷き終え、丁寧なお辞儀をして去って行くと、弥勒は珊瑚に向き直った。
そして、その手を取り…
「珊瑚、私の子を産んでくれんか!?」
「……」
「……?」
そのまま見詰め合う二人…。
ん!?
当然自分目掛けて飛んで来るであろうと思っていた平手が、来ない…。
へ!?
な、何で?と、拍子抜けしている弥勒を余所に、珊瑚は弥勒の肩にコトンと自分の頭を乗せた。
「さ、珊…瑚…?」
「好きです。法師さま」
「……」
予想していなかった訳ではない。
それぞれ心の傷を抱いた者達が、同じ目的で長く旅を続ければ、互いに思い合うようになるのが人情の常。
しかも、男が二人に、女も二人。
やはり、そういう組み合わせになるのが、自然の成り行きというものなのか…。
珊瑚は弥勒の肩に頭を乗せたまま語り出す。
「親兄弟皆を亡くして、落ち込んでいたあたしを一番気遣ってくれたのは、法師さまだって判ったの。
傍に居て、いつも笑顔で笑っている法師さまを見ると、元気が出るの…。
法師さまだって、辛い思いをしているのに、酷い境遇にあるのに、笑っているでしょ?
あたし、法師さまが居なかったら、二度と笑えなかったかもしれない…」
そう言うと、珊瑚は顔を上げ、弥勒の顔を見上げた。「……」
「あたしって、色気無いかな?」
「……?」
「ずっと、妖怪退治なんかやってきたから…。やっぱ、女の子っぽくないよね…」
桜色の小さい唇を震わせて言う珊瑚。
「珊瑚…」
「それでも、あたし、法師さまが…好き」
見上げる瞳は潤みながらも、強かな光を放っていた。
その瞳に吸い込まれるように見入っている弥勒。
珊瑚が嫌いな訳はない。
もちろん、好きだ。
良いおなごだと思っている。
奈落の非情な謀略に弄ばれた珊瑚が不憫でならないとも思う。
出来れば、自分の手でその心の傷を癒してやりたいとさえ思う。
その気持ちに偽りは無い。
ただ……
じっと弥勒を見つめていた珊瑚がそっと瞳を閉じた。
もう、そうする他に無かった。
弥勒は珊瑚の肩に優しく手を掛け、その体を引き寄せ、唇を重ねた。
柔らかいその感触に、珊瑚も弥勒自身も堕ちて行く。
そして、弥勒は珊瑚の体を畳の上にゆっくりと押し倒した。
目をつむったまま、唇で唇を愛撫する弥勒。
ふっと唇を離し、目を開けると、そこにある顔が……。
(犬夜叉っ!)
思わずそう声に出しそうになって、弥勒は慌てて息を呑んだ。
目の前の濡れた唇が珊瑚のものだと認め、苦笑する。
犬夜叉のことを考えていたなんて…どうなってるんだ、俺は…。
珊瑚が目を開けた。
「法師さま…?」
弥勒はいつものさわやかな笑顔を見せて言った。
「今、本当に子供が出来たら、まずいだろう?私達にとって、奈落を倒すのが先決だ」
その明るい声に珊瑚は納得し、一人で布団に入った。
その夜、弥勒が縁側に腰を下ろし、一晩中暗い夜空を眺めていたことを、珊瑚は知らない。
「弥勒さまって、意外と奥手なのねぇ」
「ホント、意外よねぇ…」
かごめと珊瑚がヒソヒソと語っているところに、七宝が大きなあくびをかましながら戻って来た。
「犬夜叉と弥勒さまは?」かごめが尋ねる。
「何でも、男同士の話だとか言って、話し込んどったぞ。おらはもう眠くて…zzzzz」
「男同士の話?」
「何だろ?」
湯の中では、七宝が居なくなったことも手伝って、言い争いが過熱しようとしていた。
「抱いたとして、何が悪いのです?」
そう言われては何も返す言葉が無い犬夜叉。
「お前はかごめさまを、私は珊瑚を幸せにする…そういうことです」
「……」
「じゃあ、何なんだよ!」
暫く言葉も無く項垂れていた犬夜叉が、突然怒鳴った。
「……?」
犬夜叉は自分の右耳に手をやり、髪を引っ張って、耳の根元辺りを弥勒に見せる。
「!!」
そこには、弥勒が付けてやったおそろいの耳飾りが、あの時と変わらず小さな輝きを放っていた。
あの時以来、犬耳に付いていたのを見たことが無かったので、皆の目に付くのが嫌で外したのだろうと思っていた。
でも、犬夜叉は人目に付かないように、ふさふさの銀髪に隠れた耳の根元辺りに密かに付け替えていたのだ。
「これを、俺の耳に付けたのは、一体何なんだ!!」
「……」
何とも答えぬ弥勒に、犬夜叉は言葉を続ける。
「もっと、近いと思ってた…。桔梗や、かごめより、もっと近い存在だと思ってた。
俺のことはお前が一番よく知っていて、お前のことも俺が一番よく知っているんだと…。
皆、いずれ俺から去って行くような気がするけれど、お前だけは…お前だけは、ずっと傍に居てくれるんじゃないかって…。
でも……」
犬夜叉は頭を垂れた。
長い銀の髪がばさりとその横顔を覆う。
そして、俯いたまま犬夜叉は妙に明るく笑い出した。
「犬…夜叉?」
「ふっ…。ハハッ。ハハハッ。馬鹿みてえだ。助平坊主に遊ばれてたなんてよ」
いつもの悪態のように言うが、言い終わった後、牙で唇を強く噛み締めているのが銀髪の間から見えた。
すると、キッと弥勒に向き直って声を上げる。
「俺は、お前が……」
しかし、もう言葉が出なかった。
犬夜叉は諦めたように小さく息を吐くと、右耳に付けられた金の輪を取り外した。
「これ、お前に返す」
今までに聞いたことが無いくらい弱々しい犬夜叉の声…。
それでも、精一杯の力を振り絞って、ようやく喉から吐き出されたというような声…。
小さな金の輪が弥勒の目の前でチャポンという軽い音を立て、湯水の中に落ちた。
ゆっくりと湯の中を落ちて行く金の輪。
やがて、それは弥勒の手の中に収まった。
犬夜叉が湯から出て行く。
その背中は何も語ってはいなかった。
感情を失ってしまった…まるで、そんなふうだった。
今度は弥勒が己の唇を噛んだ。
犬夜叉の姿が暗い木々の間に消えてしまってから、弥勒は再び自分の手の平に落とされた金の輪を見つめた。
今の今まで犬夜叉の耳に付けられていたそれは、湯の中できらきらと光っている。
でも、その輝きがどことなく悲しい色をしているのは何故だろう…。
長いため息をつく弥勒。
そうして、金の輪に微笑みかけた。
「犬夜叉の奴、俺の心にまで風穴を開けやがって……」
赤い炎がちろちろと燃えている。
弥勒が仲間の元へと戻ると、皆は既に静かな眠りに落ちていた。
自分も片隅にそっと腰を下ろす。
犬夜叉は…少し離れた所で木に寄りかかって瞳を閉じている。
弥勒も瞳を閉じた。
……
『これ、お前に返す』
……
最後にそう言った犬夜叉の言葉が胸を掻きむしる。
犬夜叉の耳に自分と同じ耳飾りを付けてやったのは、気まぐれでも何でも無い。
『俺のことはお前が一番よく知っていて、お前のことも俺が一番よく知っているんだと…』
そう感じたのは弥勒とて同じだった。
それに…
それ以上に……
うっすらと開かれた弥勒の瞳に、焚き火の炎が揺れた。
すっと立ち上がると、濃紫の袈裟が音も無く焚き火の脇を通り過ぎる。
そして、木の根元に寄り掛かって座る犬夜叉の前まで来て止まった。
犬夜叉は無論、気配で弥勒が自分の目の前にいることは判っている。
でも、絶対に目を開けてやるものかと思った。
もう、弥勒なんか……
一方、弥勒は犬夜叉の胡坐をかいた足のすぐ傍に立っていたが、目覚める気配が無いので、そのまま犬夜叉の足に跨るように両膝を地に付けた。
間近で犬夜叉の顔を眺める。
豊かなその頬を焚き火の炎が照らし出し、誘うように揺らめいている。
ふと、不自然なほど固く閉ざされた瞼がぴくりと動くのを見止め、弥勒は口の端を緩ませた。
手を犬夜叉の頬に伸ばしかけたが、ふと止める。
その代わりに、自分の唇を犬夜叉の唇に重ねた……。
「!!」
犬夜叉は突然の感触に思いっきり目を見開いた。
その驚きをなだめるように、弥勒は唇を重ねたまま、犬夜叉の頬から後ろ首にかけて優しく手で撫でてやる。
弥勒の柔らかい唇が、自分の唇に優しく触れるその心地良さに、犬夜叉は再び目を閉じた。
前に一度だけ重ねたことのある弥勒の唇。
満天の星空の下。
あの時はほんの一瞬だった。
ああ…やっぱり、こんなに柔らかかったんだ…。
…と、弥勒の手の中に堕ちて行きそうになる犬夜叉。
しかし、寸でのところで意識を引き戻した。
バッと弥勒の両肩を掴み、その体を引き離す。
「どういうつもりだ…」
皆を起さないように声を殺して言う。
弥勒はその問いにただ穏やかに微笑むばかり。
「お前、珊瑚を、抱いたんだろう?」
「…嘘だ」
「あ?」
犬夜叉は呆然として弥勒を見上げた。
弥勒はいつもと同じ、優しい顔つきでもう一度言う。
「嘘だ」
その瞬間、犬夜叉は弥勒の腰を掴み、スッと180度回転して、木の反対側の暗がりへと移動した。
「嘘って…?」
「抱いたのは本当ですが、そういうコトはしていません」
「……」
「しようと思った…」
弥勒は低い声で語りだす。
「お前にはかごめさまが、私には珊瑚が居て、それぞれ結ばれれば、皆幸せになれるはずだと思った。
だから、珊瑚が私を求めた時、私は珊瑚と寝てしまおうと思った…。
でも…出来なかった。
何故出来なかったと思う?」
「何でだ?」
澄んだ瞳で見上げる犬夜叉。
弥勒は答える代わりに、懐から先刻犬夜叉が放り投げた金の輪を取り出し、それを右耳の根元に付け戻してやった。
「弥勒…」
犬夜叉は弥勒の腰に掛けた手に力を入れてその体を引き寄せた。
「弥勒…」
弥勒の細い腰を抱くと、かけがえの無い安堵と幸せの感覚が犬夜叉の胸に降り注ぐ。
暫くそうして抱き合った後、弥勒が体勢を戻した。
そして、犬夜叉の小さい顎に手を掛けると、幾度と無く己の名を零すその唇を再び奪った。
先ほどよりもっと強く、もっと深く犬夜叉の唇を愛撫する。
弥勒の手は犬夜叉の後頭部にあてがわれ、細く豊かな銀の髪を艶めかしく掻き揚げる。
執拗に、角度を変えては犬夜叉の唇を吸う。
息が苦しくなって、二つの唇の間にほんの僅かな隙が出来た時…
犬夜叉の唇から甘い声が漏れた。
「弥勒…お前が…す―――」
全てを言わせず、弥勒の唇が再びその口を塞ぐ。
そんな罪深く甘い言葉を吐こうとした犬夜叉の唇の中に、弥勒は己の舌を挿し込んだ。
「…んっ…ぅっ…は…ぁ…」
情のこもった舌の動きに、犬夜叉の口の端から途切れ途切れの吐息が漏れる。
弥勒の唇はその吐息さえ奪っていく。
互いの存在を確かめ合うように絡み合う、二つの舌。
弥勒は、犬夜叉も自分自身も、既に止められないところまで来てしまったことを悟る。
犬夜叉…お前が、好きだ。
誰よりも、好きだ。
お前の不器用な優しさと、飾り気の無い強い心。
それに、お前は…お前が思っている以上に、綺麗だし、可愛い。
俺は、ずっとそんなお前が好きだった。
お前が欲しい。
お前の全てが欲しい。
お前の体を穿ちたい。
……
……
……
背中に置かれた犬夜叉の手は自分を求めて悩ましげに這い回っている。
密着させた体は熱く、ひとつに溶けてしまう寸前だ。
犬夜叉の下肢の間には固くなったものさえ感じられる。
……
ひとつになりたい。
だが、その狂おしい欲情を、弥勒は心の底に押し込めた。
そっと唇を離す弥勒。
犬夜叉のとろんとした瞳がすがるようにそれを見上げた。
弥勒は犬夜叉の額に手を当てると、前髪を優しく払い、そこに小さく唇をつけた。
「弥勒…?」
「おやすみ。犬夜叉」
最後にもう一度犬夜叉の顔を瞳に焼き付けるように見つめると、
弥勒はすっと体を起こし、焚き火の燃える方へと戻って行った。
元の場所に静かに腰を下ろし、弥勒は一人燃え盛る炎を見つめた。
皆は安らかな寝息を立てて眠っている。
犬夜叉は…まだあの木の向こう側だ。
恐らく、今晩は皆の方を向いて寝る気にはなれないだろう。
炎は調子良く燃えていたかと思うと、理由も知れず突然ふっと消え入りそうになる。
そして、途絶えるかと思うと、突然また何の前触れも無く、烈しく燃え上がる。
弥勒は瞳を閉じた。
手に掛けた数珠を数え、乱れた心を落ち着かせようとする。
でも、瞼の裏には、何時までも赤い炎がちらちらと揺れ、弥勒の心に影を作った……
了
written by 遊丸@七変化
またしても、えろキスが書きたいばかりに…。
今度は、珊瑚ちゃんを引っ張り出して…。
ミロサン派の方、御免なさい。
でも、珊瑚ちゃんって強かだよねー。
下手すると、桔梗より手強い?
七宝ちゃんも頑張っていたし。
やっぱり、七宝ちゃんも弥勒さまのことが!?
はぁ。
弥勒さまも、罪なオトコねぇ……。