「ほーれ景虎ァ、ちゃんとポーズ取れって!」
三脚にセットしたカメラの前で、千秋に無理やり変なポーズを取らされた。「何なんだよ、一体…」とぼやく高耶に、千秋はとんでもないことをさらりと言ってのけた。
「いやな、“直高”に対抗して、俺も今から“ちーたか”で一旗揚げようかと思ってよ」
「何だと!?」
思わず叫ぶ声が裏返った。
「おめえらの仲取り持つのはもううんざりなんだよ。目指せ脱イイ人!ってなわけで、俺も参戦することにしたから、ヨロシクな、大将」
「ちょ、ちょっと待て、千秋。早まるな」
直江だけでも手に余っているというのに、千秋までなんて冗談じゃない。狂犬は一匹でたくさんだ。
「記念に俺らのラブラブ写真撮って、直江のヤローに送りつけてやる。宣戦布告だぜ」
「やめろ、バカ。んなことしたら、どんな恐ろしいことになるかお前わかってんのか!?」
考えただけでもぞっとする。直江と千秋が血みどろになろうが知ったことではないが、こっちにとばっちりがくるのはご免だ。直江のことだ、お仕置きと称してきっとあーんなコトやこーんなコトをしかけてくるに違いない。
「ハイ、そんじゃお次はひとつチュウでもしてみっか? ん?」
「しょ、正気かっ、千秋!?」
顎に手をかけてくる千秋の手を咄嗟に払いのけ、高耶は後ずさりする。
「何だよ。嫌なのか…?」
それまでの強気な態度から一変、千秋は瞳を曇らせ、傷ついたような顔をした。
「俺じゃ、ダメなのか? 景虎…。俺らだって、結構長い付き合いなのに…」
「いや、その…」
「直江ならよくて、俺じゃダメだってのか?」
「そういうわけじゃ…」
「だったら、いいだろ? 一回くらいチュウさせろよ?」
高耶の弱い耳元に唇を寄せ、低い声で切なげに囁いてくる。
「だ、だめだ…千秋…お前とはそういうんじゃない…お前とは、その…と、と、と…ともだち、だろ?」
その瞬間、ブワハッ!と千秋が噴き出した。ヒャーヒャッヒャッヒャッ…と、腹を抱えて続けざまに引きつった笑い声を上げる。
「“ともだち”、だってよ! 傑作だなこりゃ!」
目尻に涙を浮かべて笑い転げる千秋を、高耶はポカンと眺めた。
「バーカ。そんなだから、おめーは男に弱いってんだよ。冗談に決まってんだろ。何が悲しくてこの千秋様がおめえなんぞの唇奪わなきゃならねんだっつの、このタコ!」
高耶の拳がプルプルと震える。
「ち・あ・きぃぃー!」
「ウッヒャッヒャッ…。お、この写真なかなかよく撮れてんじゃんよ。こっちのキス5秒前もイイ感じだぜ。さあこの写真を直江に見せられたくなかったら…」
「見せられたくなかったら?」
肝心なその先を考えていなかったのか、千秋は急に言いよどんだ。
「そ、そうだな…えーっと、ラーメンでも…おごってもらおうか」
「ラ、ラーメン!? …そんだけ?」
どんな屈辱的な条件を提示されるかと身構えていた高耶は肩透かしを喰らう。
「そんだけだ。何だ、わりいかよ?」
「いや、お前…そんなんだから、いつまで経っても“イイ人”とか言われんじゃねえのか?」
「それを言うなァ!!」
そうして、高耶と千秋は仲良く(?)ラーメンを食べに行ったとか。ちゃんちゃん。
直高をこよなく愛する私ですが、ちーたかも悪くないなーなんて思ってしまいます。直高前提の千高とか。どうでしょう。直江が傍にいない寂しさを紛らわすように千秋に身を委ねる高耶さん。自分が身代わりであることを知りつつも、高耶さんの身体を慰め続ける千秋…。「バッカヤロウ、俺はただの生理的欲求で抱いてるだけなんだから、おめえはいっちょまえに罪悪感とか感じてんじゃねえよ」なーんて強がっちゃったりして。ウフ。友達以上、恋人未満のキケンなカンケイ。ううっ、悪くないかも。