「また海を見ていたんですか?」
屋上の一角に、海を眺めるのにちょうどいい突端がある。
高耶は何か考え事をする時、よくここに来ていた。
直江が背後から声をかけても、高耶は振り向かない。
覗き込むと、海に向かって目を閉じたまま、じっと波の音に耳を傾けているようだ。
「今日は風が強い。あんまり風に当たっていると、風邪を引いてしまいますよ」
「ああ…」
頷きながらも、戻る気配はない。
「何を考えているんですか?」
「明日の作戦のこと…を考えていたんだが、まったく別のことを今思っていた」
「別のこと?」
高耶は直江を見て口もとを緩め、「何だと思う?」と逆に聞いてきた。
「小田原の海のことでも思い出していたんですか?」
「いや…、ちょっと違う」
「越後の海ですか?」
高耶は少しの沈黙の後に答える。
「初めて換生して、お前と相対したあの荒れた海だ。今日の波の音は、どこかあの日の海と似ているような気がして、目を閉じて、あの時のことを思ってた」
「景虎様…」
「随分と、遠くへ来てしまったな」
その赤い瞳で太平洋を見つめながら感慨深げに呟く高耶に、直江はそっと寄り添う。
随分と遠くへ…。
そうだ。場所だけではない。自分たちが生き続ける理由も、求めるものも何もかも、あの頃とはすっかり変わってしまった。
直江は高耶の右手に自分の右手を重ねて言う。
「すべてが終わったら帰りませんか、越後に」
けれど、高耶はそれには答えず、小さな微笑を返すだけだった。
まるで、自分たちにはもう還れる場所はない、もう折り返すことなどできない…という悲壮な決意を含んでいるようなその切ない微笑みを、直江はじっと見守るしかなかった。





「還れない海」なのに、海が描かれていないとか、鉄柵が変とか、服が適当過ぎるとか…
色々あるでしょうけれども、イメージで見てください。イメージで;;
「還れない海」はイメージアルバムの同タイトルの曲から取りました。
彼らにとって、還れない場所はあまりに多いだろうなと思います。
でもそれは彼らだけじゃなく、誰しもそんな場所を心に抱えているものなのかもしれません。
還れない場所を思う時、人生には折り返しなどないんだな…と改めて思うのです。







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