「仰木! 今俺たちに足りないものは何か、わかるか?」
夕食を食べた後、高耶がそのまま食堂に残り、テーブルに大きな地図を広げ、腕組をしながら今後の作戦をあれこれと練っていると、横から突然潮が話しかけてきた。
「士気だ」
即座にそう答えてやると、潮は「ちっがーう」と地団太踏んだ。
「そういうことじゃなくて。もっとこう…その士気の源になるようなもんだよ!」
「士気の源? 生への執着とか死に対する悔恨とかそういうことか?」
「ちっげーよ。そんな抽象的なことじゃなくて。もっと現実的なことだ」
「何だそれ?」
潮は高耶の目を真っ直ぐに見つめながら答える。
「今俺たちに足りないもの…それは、だ」
「……」
聞かなかった振りをして、視線を地図に戻すと、潮が慌てて「ちょちょちょ、聞いてくれよー」と縋りつく。
「最近の食堂のメニュー、鰹のタタキとか焼き鰹とか鰹のカルパッチョとか、鰹ばっかりだとは思わないか?」
「そりゃまあ土佐名物だからな」
「鰹じゃなくても、だのだのだの、海のもんばっかりじゃねえか」
「いいじゃないか。魚は美味いし、身体にもいいんだぞ?」
「俺らはうんざりしてんだよ!」
見れば、潮の背後に楢崎を始めとする肉体持ちの隊士らが集まり、皆一様に大きく頷いている。
「肉だ、肉! 俺たちには肉が不足してるんだ! たまには皆で焼肉パーティーでもしてパーッと盛り上がりたいんだよっ!」
「そうは言ってもな…魚なら白鮫たちが獲ってくるからいいが、肉となると買わなければならないから金がかかる」
「それだ! それなんだよ、仰木、問題は。だから、俺らのために一肌脱いでくれよ」
頼む、と潮が両手を合わせると、その後ろで一同が「お願いします」と深々と頭を下げた。
今空海様なら何とかしてくれるだろ?」
高耶はフッと軽くため息をつくと、諦めたように呟いた。
「仕方ないな…」



「で、何でこんなことになってるんだ?」
地下にこんな部屋があるとは知らなかった。
スタジオのような一室である。
天井からたくさんのライトが吊り下がっている。
その中にひとつ、大きなピンク色のライトがあり、布の上に横たわる高耶の身体もどこかエロティックなピンク色に染められていた。
「まあまあ。細かいことは気にしない。はい、ちょっと脚を上げてみようか。カメラ目線で頼むぜ」
高耶は全裸で潮の言うなりにポーズを取る。
「手っ取り早く金稼ぐなら、やっぱこれだろ。小冊子作って各札所で販売すればあっという間にガッポリだぜ。タイトルはそうだな…『仰木高耶二十二歳、暴かれる今空海の素顔!』、これで決まりだ!」
パフッパフッとフラッシュを焚く音が小気味よく室内に響く。
「どうでもいいけどな。お前、にはこのこと言わない方がいいぞ」
物憂げに言う高耶に、潮が「へ、何で?」と無邪気に聞き返す。
「さあ、何でだろうな。ともかく、死にたくなかったら言わないことだ」
聞いているのかいないのか、潮はノリノリで次々とシャッターを切った。



「皆、ジュースは行き渡ったか? それでは、我らが仰木隊長に感謝の意を表して…乾杯ー!」
念願の焼肉パーティーが開催されたのはそれから数週間後のことである。
中庭にキャンピングテーブルを並べ、炭火を使っての本格的な焼肉ディナーとなった。
肉の焼ける香ばしい匂いに、隊士一同、大いに盛り上がった。
「今夜は随分と豪勢ですね」
ウーロン茶片手に高耶に近づいてきたのは橘義明こと、直江だ。
情報収集の任務を終えて、たった今戻って来たところらしい。
「たまにはいいだろ」
「でも、こんないい肉をたくさん使って…資金の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、まあ、な…」
高耶は目線を泳がせてオレンジジュースに口をつけた。
その時である。
高耶たちから離れた一角で、何やら歓声が上がった。
さすが仰木隊長!
「わしゃ、あの人なら、これくらいやると思うちょった!」
「よっ、赤★GAY★衆のアイドル!
その様子に直江が訝しげな視線を向ける。
「何でしょう、あなたのことを噂しているみたいですけど…」
その中心で、潮がどうやら例の小冊子を広げてその出来栄えを自慢しているようだった。
直江は気になるらしく、潮たちの方へと行きかけるが、高耶に腕を掴まれ立ち止まる。
「あ、いや…折角なんだから、お前もいっぱい食えよ」
「でも…」
高耶の話題に湧いている一団になおも興味を示す直江に、高耶はトドメの一言を放った。
「早く食って、さっさとオレの部屋へずらかろうぜ?」
内緒話のようにそう囁く高耶に、直江は血走った目を向ける。
「た、高耶さん…いいんですか?」
「うんとスタミナつけろよ?」
直江が潮たちにはもう目もくれず、肉に箸をつけたのは言うまでもない。



だが、高耶の努力も虚しく、翌朝直江は館内のロビーに所狭しと陳列された『仰木高耶二十二歳…』の小冊子を目撃することになる…。
カメラマンの武藤潮他、高耶の官能ショットを目にした隊士たち全員、半殺しの目に遭ったとか遭わなかったとか。





札所でこんな小冊子販売したら天罰が下りそうです。
何か私、高耶さんの写真集ネタが好きですね。
もしそんなものがあれば、夢のような本になること間違いなしです。
ドリーム入るあまり、↑の高耶さんの髪が黒柳徹子みたいだとか、或いは千と千尋の湯ばあばみたいだとか、そんなことももはや気になりません(号泣)。







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