「狂犬スイッチON!」

それは、橘義明こと直江信綱が会議の資料を手に、西の総軍団長・仰木高耶の部屋へ入った直後のことだった。
高耶が何やらにやけながらそう叫んだかと思うと、突如身体が己の意思とは無関係に動き出したのである。
資料を投げ出してガバッとベッドの上にいた高耶に覆い被さり、高耶の白いTシャツを捲し上げると滑らかな肌に唇を寄せていく…。

「己の意思とは無関係に…」とは言え、それは何度も自分の意思で繰り返してきた行為と何ら変わりはなかったのでさほど違和感も抱かずにいると、高耶が「よーし、よしよし」と楽しげにまるで犬でも相手にするかのように、髪の毛をクシャクシャと撫でてきた。
頭の上に疑問符を浮かばせている直江に、高耶は続けて言い放つ。

「忠犬スイッチON!」

今度はそう言われた途端に、身体が勝手にベッドから飛び降り、床の上に正座した。
操り人形にでもなったようだ。

「お手!」

高耶が鋭く叫ぶと、直江は右手を差し出し、大人しく高耶の手に重ねる。

「おかわり!」

今度は左手を差し出す。身体は高耶の言うなりだ。
そのうち高耶はプッと噴き出すと、腹を抱えてベッドの上で笑い転げた。
一頻り笑った後で、何やら手にしたリモコン装置のスイッチをパチンと切る。
そこで直江はようやく身体の支配権が自分自身に戻ってくるのを感じた。

「何をやっているんですか、高耶さん」

どうやら遊ばれたらしいことだけは察知して、直江が眉を寄せて問いただす。
高耶は目尻に浮かんだ涙を拭きながら答える。

「いやな。武器開発研究班に試しに作らせてみたんだ。名付けて『狂犬コントロール・マシーン』。面白いだろ?」

スイッチを右に倒せば目の前にいる相手が忠犬、左に倒せば狂犬モードになるというものらしい。
直江は武器開発研究班に心から同情した。

「そんなもの開発させて何に使うつもりですか」

「さて、何に使おうかなあ」

腕を組み、斜め四十五度の見下し目線で、高耶は直江を見る。
その口もとはにやり、と少々意地悪そうに笑っている。

フッと軽くため息をついてから、直江は立ち上がった。
こちらも負けてはいられない。
「お手」までさせられた意趣返しとばかりに、真率な顔になって問いかける。

「そんなに私を忠犬にさせたいですか?」

片膝をベッドに乗せると、木枠がミシッと小さく軋む。
何かを待ち構えるように高耶の喉がヒクリと上下する。

「それは、私にもっと優しく抱いて欲しいということですか?」

「な、何言って…」

顎に手をやり、親指の腹で高耶のやや肉厚な下唇をなぞる。
そうするだけで、高耶の赤い瞳は毒気を抜かれたように潤み出した。
そのまま高耶の身体をゆっくり押し倒していく。

「どっちがいいんですか? 忠犬の私と、狂犬の私…」

直江は耳元に囁きかけながら、焦らすように微妙な力加減で高耶の脇腹を撫で回す。

「んっ…」

「さあ、答えて? どっちがいいか…」

高耶は固く目を瞑り、消え入りそうな声で答えた。

「…きょ、狂犬…」

聞いた途端、直江は心の中でガッツポーズを取る。

「じゃあ、スイッチをオンにして?」

ベッドの上に転がるリモコンへと伸ばしかけた高耶の手を直江が制した。

「そっちじゃないですよ。本当の狂犬スイッチは…こっちです」

と、その手を己の股間へと押し当てた。

「ば、ばかっ、直江…ああっ!」

頬を赤らめた高耶のTシャツを一気に剥ぎ取ると、狂犬は髪を振り乱しながらその肌に無数の口づけの痕を散りばめていった…。





下ネタかよっ!?
はい、下ネタですみません。
高耶さんって始めの頃はどこかこういう無邪気でかわいいところがあったと思うんですが、
景虎の記憶を取り戻すにつれて、そういう面が少なくなって残念です。
もっとも、あの展開じゃ無邪気でもいられないですよね。
こんな武器?開発させてるようじゃ、赤鯨衆壊滅しそうですし…。
いや、案外使いようによっては、天下取れるかも!?







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