プチ・ミラージュツアー


「天上の湖」の巻


●旅行日:2014年3月5日

●『炎の蜃気楼』該当箇所:13巻『黄泉への風穴・前編』

●対象スポット:中禅寺湖

●同行者:なし

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萩で「死」んだ直江が、満身創痍の身体を癒していたという「天上の湖」。

13巻『黄泉への風穴 前編』の冒頭にて描かれていたその湖の雪景色を一度見てみたいと、かねてから思っていたのですが、中禅寺湖は2011年5月に一度行っていますし、相方はあまり乗り気でないし、うーんどうしたものか…と思いあぐねていたところ、妙案が浮かびました。

そうだ、青春18きっぷを使って、日帰り旅をしよう、と。

ジョルダン(18きっぷを使った乗換検索ができるサイト)で調べてみたところ、最寄駅からJR日光駅までは片道所要時間4時間と6分。中禅寺湖まで行って雪に閉ざされた湖を撮影したいだけなので、日帰りでも余裕じゃないですか。しかも宿泊費もかからないし、一人でサクっと行けるし、一石二鳥。ついでに温泉でも入ってくれば、大満足ですよ。

因みに、この「天上の湖」についてですが、13巻冒頭の部分には「天上の湖」としか書かれておらず、場所の特定はできないのですが(とは言え、「天上の湖」だという時点で中禅寺湖であると推定はできますが)、19巻『火輪の王国 烈濤編』82ページに直江がリハビリに専念した地が日光であったと書かれています(他にも同様の記述がもしかしたらあったかもしれませんが)。
雪に閉ざされた「天上の湖」が見たいのであれば、それなりに天候も考慮しなくてはなりません。ホテルや交通手段を前もって予約しなくてはならないような旅ならば、天候はほぼ運任せですが、今回の旅は気楽な日帰り旅。天気予報を見て、中禅寺湖エリアに雪マークがある日を直前に選んで決行することに。

日光と中禅寺湖周辺には他にもミラージュスポットがありますが、今回は雪の中禅寺湖を見に行くだけ。『覇者の魔鏡』に出てきたスポットに関しては、2011年のツアーレポートを参照して下さい。

さて、決行当日。上野から宇都宮線快速に乗り、終点・宇都宮までやってきました。今回、乗換のみではありますが、宇都宮の駅に降りたのは初めて。橘義明さんが住んでいた街だ〜と思いながら、駅前の風景を眺めました。
宇都宮から日光線に乗換。日光線のホームはレトロな感じが漂っています。

宇都宮では雨だった天気も、日光線を走っている途中で雪へと変わりました。
JR日光駅に到着。

いい感じに雪が積もってますね。

バス停は目の前にあるので、駅の庇の下で中禅寺湖へ行くバスを待ちます。                 
バスを待つまでの間、JR日光駅の窓口で、「中禅寺温泉フリーパス」を購入。東武バスのフリーパスですが、JR日光駅でも扱っています。

JR日光駅から二荒山神社中宮祠の辺りまでの区間が二日間乗り放題で2,000円。今回日帰りなのにもったいないですが、単純に往復するだけで元が取れるので購入しました。
がら空きのバスに乗車し、中禅寺湖を目指します。

山を上るにつれ、だんだん雪が酷くなってきました。窓の外もほぼ白一色。

除雪してはありますが、道路はもちろん凍っています。いろは坂の急カーブなんて一人でヒヤヒヤしてしまいました。あんな悪路でも毎日バスが運行しているなんてすごい。運転手さんに脱帽です。
日光レークサイドホテル前のバス停で下車し、中禅寺温泉の方へ歩いてきました。

ポンチョを着用していましたが、風もそこそこあったので、想像以上に過酷な天候。手が冷たい(そう言えば私この日、手袋を忘れたような…)、顔に雪がかかる…。

しかし、この悪天候の中でも、除雪車はちゃんと動いているし、車や人の姿もちらほら。観光客らしき中年のカップルもいたりして。一体何が悲しくてこんな吹雪の日にわざわざ中禅寺湖くんだりまで来てるんだ?なんて思ってしまいましたが、人のことは言えねえか(笑)。雪深い地方の人からしたら、こんなの日常なのかもしれませんね。
中禅寺湖が見えてきました。視界も悪く、思いきり雪に煙っている状態。

しかも、湖の方から風が吹いてきて、カメラを向けるとすぐレンズが濡れる(もちろん顔にも雪が当たる)。その都度レンズ(や顔や手)を拭き拭きして撮影しなくてはならない始末。

写真は中宮祠の方を向いて。

それでも、直江が見ていた天上の湖の風景をひと目見るため、良いアングルを探しに歩きますよ。歩きますとも。

「立木観音入口」交差点から、南側へ。以前来た時、それっぽい桟橋があったはずなので、その辺りを目指します。




<夜明けの湖に、雪が降りはじめた。通る車もないのか、湖畔はまるで凍りついたように静まりかえっている。一面、雪化粧した山々が、深緑色の湖面のむこうにうっすらと見える。耳が痛くなるほどの静寂だ。桟橋におりてくると、ようやくかすかなさざ波の音が聞こえてくる。凍らない湖を見つめて、彼は桟橋の先端にたたずんだ。白いセーターがよく似合う、端正な顔だちの長身の男だ>(13巻『黄泉への風穴 前編』8ページ)

「桟橋」の背後にはレストハウスがあるらしく、直江は恐らくそこで静養していたのでしょう。そのレストハウスが中禅寺湖のどの辺りにあるのかは定かではありません。雰囲気だけ味わえればいいかなと。この日は周囲の山々も見えぬほど視界が悪かったです。





<男は眉をよせて、湖畔のさざ波に耳を傾ける。雪が、昏い湖に無数に消えていく。重い雲から舞い落ちてくる粉雪が、彼の肩にかかって、音もなく溶けて消えた。深い湖が茫漠と広がる山懐の光景を桟橋から見つめ、……いつか見たさびしい場面を思い出して、あの面影と哀しい背中をまぶたに浮かべながら、男は低く呟いた。「――寒い思いを、してるかもしれない」>(13巻『黄泉への風穴 前編』12ページ)

「いつか見たさびしい場面」というのは、『覇者の魔鏡』のラストシーンのことでしょう。高耶さんに少年らしさを垣間見ることができたのは…やはり『覇者の〜』までですかね。次の『みなぎわ〜』からは女王様全開って感じでしたし。あのラストシーンで直江が一切弁明せずに一人で去ってしまったことが、二人の溝を一層深める決定打となってしまったように思えます。もっとも、直江に弁明なんてできるはずもないし、したくもなかったんでしょうけれども。
それにしても、萩で「死」んで以来、二年間、直江はどんな気持ちで過ごしていたのかと思うと、切ないですね。…いや。あの男は案外、ウェイブを操って四六時中高耶さんを監視して楽しんでいたりして(笑)。





<男は空中に静かに手をさしのべて雪を受けとめる。冷たい空気しかつかめないさびしい腕を、誰かを抱くように祈り、胸にあて拳を握り、静かに瞼を閉じ、押し殺した声で何か呟いた。(略) 真っ白い雪が視界を閉ざしていく。静まりかえる天上の湖は、ひとの想いすら溶かしこむように、ただ深く、沈黙して、そこにあった>(3巻『黄泉への風穴 前編』12ページ)

中禅寺湖は日本一標高が高いところ(1,269m)にある湖です。荒天のこの日、雪に閉ざされる、という表現が本当にしっくりくるような光景が広がっていました。てか、よくバスが走ってるなと感心しますが。あまりに天気が酷くて、湖沿いを歩きながら写真を撮っていたのは20分足らずの間でしたが、直江があの時見ていた風景を見ることができて満足です。因みに写真についてですが、降っている雪は写りにくいので、フラッシュを焚いて撮影しています(何気に使える小技です)。


容赦なく吹き付けてくる冷たい風雪に耐え切れなくなり、温泉街の方へ戻ってきました。

何もせずに温泉につかり、旅館の窓から雪景色を眺めるだけなら優雅でいいんでしょうけれど…、私はひどい濡れ鼠状態。
凍った道路に、秋の紅葉が閉じ込められていました。          
何とかミッションを遂行した後は、お楽しみの日帰り温泉へ。

さっきバスを降りた、日光レークサイドホテルに戻ってきました。こちらの「湖畔の湯」に入らせて頂きます。

数年前の日光ツアーのレポートで触れましたが、日光レークサイドホテルは原作に名前が登場したホテルです。このホテルの周辺で、直江、高坂、綾子、小十郎が落ち合い、作戦を練ったのでした(8巻『覇者の魔鏡 後編』111ページ〜)。
日帰り入浴が始まる12時30分にはまだ少し間があったので、ロビーで濡れたポンチョ等を始末しながら待たせてもらい、時間ぴったりに案内してもらいました。他に誰もいません。一番乗りですよ。

雪除けの覆いに囲まれた通路を湖畔の湯へ。

そう言えば、前回の日光ミラツアの際、やはりここで立ち寄り湯を利用したいと思っていたのですが、相方はなぜか蕁麻疹が出て(恐らくは前日に食べたワカサギのせい?)、私は生理になってしまい(笑)、二人とも入れなかったんですよね…。
誰もいないので、その隙に温泉の様子を撮って…みたのですが、屋内なので、湯気でかすんでしまってうまく撮れませんでした。興味のある方は、↓のリンクから飛んでみて下さい。

日光レークサイドホテルHP(別窓)

いやあ、極楽、極楽。露天はないんですが、天井の高い浴室は、天然のカラマツを使っているとのことで、森林の中の風情が漂います。お湯は、ほんのり硫黄の香りが漂っていて、いかにも効きそうな感じ。そして、私が何より気に入ったのは、そのお湯の色合い。何て言ったらいいんですかね、白濁したエメラルドグリーン、と言うのがたぶん一番近いと思うんですが…。大げさじゃなく、本当にエメラルドグリーンなんですよ。→の写真の背景のような色です。

少し経ってから何人か他のお客さんも入ってきましたが(この天候で他のお客がいたことが驚き)、それほど混むわけでもなく、ゆったりと温泉を堪能しました。
湯上りに「休憩所」というのが目に付いたので入ってみると、湖を望む洒落た広間がありました。暖かい部屋から一面の雪景色を眺められるって、贅沢ですね。

こちらの日光レークサイドホテルは、明治27年に創業した老舗ホテルだそうです。建物は建て直しているようですので、金谷ホテルのように「クラシックホテル」の範疇には入らないようですが、内装などを拝見すると格式のあるホテルであることが感じられます。
前述の「中禅寺温泉フリーパス」ですが、実はこの当時、キャンペーンをやっていまして、パスを提示すると、チーズケーキをサービスしてくれるとのことでしたので、ありがたく頂きました。セルフサービスのコーヒー付です。フロント奥のカフェコーナーで、雪景色を眺めながら至福のひと時。

写真でおわかりになるかと思いますが、窓の外、かなり積もっていますね。人の背丈くらいはあるかもしれません。

因みに、入浴料もキャンペーンにつき通常1,000円から500円に割引されました。ホテルも同じ東武系列だからできることでしょうけれども、お得すぎる…。

帰りのバスの時間までゆっくり過ごさせて頂きました。キャンペーンは一時的なもののようですが、それなしでもオススメです。中禅寺湖へミラツアした際にいかがですか。
バス停へ向かう途中、一瞬視界が開けて男体山がうっすらとその雄姿を現してくれました。

二荒山(ふたらさん)とも呼ばれるこの山は、二荒山神社のご神体ですが、それに相応しく威風堂々とした姿です。

吹雪の中、うっすらと見える稜線はどこか神秘的。
「中禅寺温泉」のバス停。雪に埋もれてて焦りましたが、待合室がちゃんとあり、バスを待っているお客も、こんな雪の日にどこから湧いてきたんだか(笑)、数組いました。ダイヤは少し乱れていたものの、15時過ぎのバスに乗り、無事にJR日光駅へ。そうして、再び18きっぷで帰路に着いたのでした。

総移動時間約10時間、現地滞在時間約3時間半の強行日帰りミラージュツアーでした。かかった費用は青春18切符1回分(2,300円※増税前)、中禅寺温泉フリーパス(2,000円)、日光レークサイドホテルの立ち寄り湯(500円)の合計4,800円のみ(昼食は、どうせ一人なのでおにぎりを持参して適当に食べました)。

一日の間に、あの一面の雪景色の中に行って帰ってきたというのは、なんだかまるで夢のようで不思議な感じがします。直江が見ていた中禅寺湖の雪景色を見てみたいだけのツアーでしたが、結構いい旅でした。

※残りの4回分の18きっぷは、名古屋1泊旅行に利用しました。そちらも一応ミラージュツアーですので、この後レポートを書く予定です。



2014.08.23 up






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