暁にひらく花のように







「お。咲いてる咲いてる」

公園の入口まで来て、高耶はフェンス際にたくさん咲いている青い大輪の花を見つけて駆け寄った。
昨夜、夕飯の後に散歩がてら歩いていた時にふと立ち寄った公園だ。

「本当に咲いたんだな。当たり前っちゃあ当たり前だけどさ。でも、何か不思議な感じだよな。つい数時間前まではまだみんな蕾だったのに」

透けそうなほど薄い花びらを感心するように覗き込む高耶。そんな彼を斜め後ろから眺めて、直江は微笑した。

「あなたの生まれた日の朝も、きっとどこかでこんなふうに朝顔が咲き誇っていたんでしょうね」

高耶は何を思っているのか、しばし黙った後、声の調子を少し押さえて語り出した。

「こんなに綺麗に咲いてるのに、みんな今日だけですぐに萎れちまうんだよな。咲くのは一度だけ」

「人のいのちと同じですね」

「ああ…。いや、でも、オレたちは…」

「同じですよ」

意外そうな表情で振り返る高耶の目をまっすぐに見返して直江は穏やかに、でも少しだけ強い語調で答える。

「始まりがあって、いつか必ず終わりが来る。一度きりの“いのち”。そういう意味では、同じなんですよ、私たちも」

高耶はふっと表情を崩した。

「じゃあ、オレもこいつらみたいにめいいっぱい咲かなきゃな」

目を閉じ、顔を近づけて花の匂いを嗅ぐ高耶は、朝顔の花そのもののように直江には思えた。そよ風に揺れる柔な花弁。でもそれは力強く太陽を向いて美しく開いてみせる。

(たったひとつのあなたのいのち…)

自分は誰よりもそばでその花を見つめていたい。最期まで見届けていたい。

(生まれてくれて、ありがとう)

そう思いながら、直江も青い花弁にそっと鼻を近づけ、朝一番の清楚な香りを胸いっぱいに吸い込んだ。








●あとがき●
2011年の高耶さんバースデーに合わせてトップに貼り付けた写真&小話です。
『七月生まれのシリウス』は大好きです。思えば、この頃が幸せの絶頂?だったのではないでしょうか(もちろん、後に二人はこういう形とはまた違った形の幸せを手にしたのだと思いますが…)。つかず離れずの部分はあっても、穏やかな関係を保っているこの頃の高耶さんと直江は、何とも言えず、いい感じです。このお話の中で、私が最も好きなのは、グリーティングカードのボタンを直江が手を添えて押すシーン。夜の公園に安っぽい音で流れるバースデーソングが涙をそそります。手を添えてボタンを押させる…なんて、一歩踏み込んだ行為を直江はさりげなくしてみせる。そこがいい。意地っ張りで強がりな高耶さんの心を逆撫ですることなく、すっと自然に入り込んでくるスマートな直江。予防線を張りつつも、そんな直江の優しさに、知らず心をほぐされていく高耶さん。なんて温かなお話なんでしょうか。定期的に読み返したくなるお話です。






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