同じ星空
その晩は珍しく犬夜叉の方から誘った。
誘った、と言っても、ただの夜の散歩だったが。
いつもは衝立の向こうから皆の寝息が聞こえてくると、
弥勒が手招きして犬夜叉を床の中へ誘い込む。
じゃれ合って、触り合って、我慢し切れなくなると、
一人ずつ外へ出る。
そうして誰もいない場所で、思い切り求め合うのだ。
でもその時、犬夜叉は弥勒の床へは入らず、
一緒に外へ出ようと言い出した。
「あのな、弥勒?」
闇の中、ぽつぽつと先を歩く犬夜叉が振り向かずに言う。
「何だ?」
「俺さ、銭とか持ってねえし・・・」
「は?」
「だから、銭とか持ってねえしよ・・・」
何を言っているのか、弥勒はしばし首を傾げながら犬夜叉の後をついて行くが、
そのうちポンと手を打って立ち止まる。
「ああ!銭なら私が持っていますよ。ささ、早く行きましょう♪まだ宵の口ですから間に合いますよ」
今度は犬夜叉が首を傾げる番だった。
振り向いて「どこに?」と問い掛ける。
「どこって、宿に決まってるでしょう。お前、きちんと床の中で思い切りヤりたいのでしょう?」
「ばっ、バカヤローーッ!!」
思わず赤面する犬夜叉。
でも弥勒の言った通りだった方が、本当はまだ恥ずかしくない。
犬夜叉はハァッと小さなため息をついて、傍らの樹に寄りかかった。
足元の小石を蹴飛ばしてみる。
「どうした?犬夜叉?」
弥勒は、優しい。・・・もちろん意地悪な時もあるけど・・・
自分はどこまでそんな弥勒に追いついて行けるだろう。
犬夜叉は弥勒の顔を見てから、促すように空を見上げた。
降るような星空だった。
「一年、か・・・」
ぽつりと弥勒が言った。
「あの・・な、弥勒?だからその・・・」
「あ〜そうそう、お祝いもらいましょうか?誕生日の」
「・・・だから、俺、銭はねえし・・・」
「そんなもの要るわけないでしょう?」
「・・・やっぱ、そういう展開なのか・・・?」
「もちろん♪」
どこか構えたような犬夜叉を見て弥勒はニヤニヤ笑っている。
「一年前、俺が、お前に何をしたか、覚えてるか?」
「えっ?・・・あ、ああ・・・」
「ホントに?」
「忘れるわけねーだろ?」
俯いて恥ずかしそうに小声で答える犬夜叉。
「だったら、俺にしてくれないか?一年前、俺がお前にしたことを。それを誕生日祝いとしてもらっておくよ」
「そんなコトで良いのか?」
普段の弥勒のスケベ度から考えて、あーんなコトやこーんなコトを強要されてしまうのだろうと、
犬夜叉は予測していたのだが。
「へえ。そんなコトとか言うんなら、やってみろよ、ほら」
弥勒は、かごめがよくするように犬夜叉の髪をぐいっと掴み、顔を近づけた。
「・・・・・・」
間近で改めて見ると、ドキッとするくらい綺麗な弥勒の顔。
普段はものすごくイヤらしい所で繋がり合ったりしているのに。
面と向かうと、どうしてこんなに胸が苦しくなるのだろう。
「ばっ・・馬ッ鹿じゃねーの。そんなウブなコト今更・・・」
犬夜叉はそう言いつつ、弥勒の手を振り解いた。
「・・・そう、だな・・・」
弥勒は意外にあっさりと微笑むと、踵を返して歩き出した。
そういう態度に出られるとかえってムッとする。
「ふざけんなよ」
犬夜叉は妖怪らしく機敏な動作で瞬時に弥勒の前へ立ち塞がった。
弥勒が反応を示す前に、顔を近づけて・・・
「!!」
「・・・・・・」
二人の間を夜風が通り過ぎると、夏草の匂いがした。
「・・・随分短い口付けですね」
「けっ、おめぇが去年したのだってこんなモンだったんだからなッ!」
弥勒は楽しそうに笑いながら草の上に腰を下ろすと、犬夜叉に手を差し伸べた。
犬夜叉もその手を取って、弥勒の隣に座り込む。
「あのさ、何て言うか、その・・・俺、一年前と同じ気持ちだから・・・」
「ん?」
「お前のこと、絶対に死なせたりしないから。俺が、守るから・・・」
「判ってますよ」
「それだけ、言いたかったんだ、ホントは・・・」
弥勒は何も言わず、犬夜叉の手を握る手に力を込めた。
そのまま、同じ夜空を見上げる二人。
流れ星が天の川を横切るようにして幾つも幾つも降り注ぐ。
「なあ・・・今夜は、しないのか?」
犬夜叉の問いに、しばらくしてから弥勒が静かに答える。
「今日は、こうしてるだけで・・・胸がいっぱいなんだよ・・・」
「・・・俺も」
犬夜叉はゆっくりと弥勒の肩に頭を乗せた。
end★★★
written by 遊丸@七変化
サイト開設当初からあった『天の川』の一年後という設定でちょろりと書いてみました。
初心を取り戻したのか随分健全ですね。
どんなにやりまくりの仲になっても(笑)、恋心は忘れて欲しくないなという親心です。
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