恋人はサンタクロース
思えば世の中、「一回だけ」という言葉がよい結果をもたらしたことなどかつてあっただろうか。
高耶は今、自分がその呪わしい台詞を軽はずみに口にしてしまったことを激しく後悔していた。
あの時の自分はどうかしていたのだ。
クリスマスを控え華やぐ街のムードに流されて正常な判断力を欠いていたに違いない。
きっとそうだ。
そうでなければ、こんなことありえるわけがない。
こんな…
こんな…
(※イメージ画像)
こんな格好をオレがしてしまうなんて!!!
冥界上杉軍の総大将として名を馳せたこのオレが…、今空海様と崇められたこのオレが…、なんでこんな変態じみたコスプレをしなきゃならないんだ!!!
ベッドライトの灯る薄暗い寝室で一人、壁にかかった姿見に向かい、高耶がプルプルと拳を震わせ屈辱に耐えていると、タイミングを見計らったようにカチャリという微かな音がしてドアが開いた。
逆光を背負った長身の男の影は、部屋に足を踏み入れようとした途端、ぴたりと固まってしまう。
数瞬、無言で見つめ合う二人の間の沈黙を破ったのは、プッという相手の小さな噴き出し笑いだった。
「な、お、えぇぇ〜〜」
カチンとくると同時に、高耶は顔から火が出るかと思うほどの羞恥に駆られ、ぎりりと奥歯を噛み締めながら、目の前の直江を睨みつけた。
後ろ手にドアを閉めた直江は、口もとに手を当て、肩を揺らして笑いを堪えている。
「誰のせいでこんな格好してると思ってやがる!」
「いえ、すみません…高耶さん。何と言うか…その、やっぱり男が着るものじゃないですね」
さらりと言われたその一言に、ボンと高耶の顔が一気に上気した。
別に「可愛いですね」なんて言えとは言わない。
自分でもこの異様さは重々承知だ。
だが、己が着ろと言ったからには、少しくらいお世辞を言ってみるものではないのか。
腹立たしいやら馬鹿馬鹿しいやらで、高耶は頭に被ったサンタ帽を乱暴に引っ剥がすと、床に叩きつけた。
「クソッ、冗談じゃねえ。なんでオレがこんな…」
と吐き捨てながら、今度はケープの襟元に手をかけ脱ぎ捨てようとした時だ。
直江の手がはしっと高耶の手首を強く掴んだかと思うと、視界がぐらりと一転した。
高耶は一瞬にしてベッドの上に磔にされてしまった。
「だめですよ、脱いだら」
覆い被さってくる直江が耳元に低く囁く。
「ふざけんなっ。こんな似合わねえ格好させて何が面白いんだよ!」
「面白いですよ、とてもね」
くすりと楽しそうに笑む直江の目を見て、高耶は思わずぞくりと背筋を凍らせた。
まずい、スイッチが入ってやがる。
「こんな変態っぽい格好をして恥ずかしがるあなたは最高にエロティックですよ」
「変態はお前だろっ。オレにこんな格好させて喜びやがって」
「あなたもでしょう? 本当はもっと恥ずかしい思いをしたいくせに。今日はあなたの隠れた欲望を全部暴いてあげる。うんといじめてあげる…」
こうなると、もう誰も直江を止められない。
ヒクヒクと口端を引きつらせる高耶を、直江は抱き起こすと、膝の上に座らせ後ろから抱き込んだ。
「いい格好ですよ、高耶さん」
顎を掴まれ、無理やり目の前の姿見を見させられる。
「てめえ、覚えてやがれ…」
「おやおや。サンタドレスを着た子がそんな乱暴な台詞を吐いちゃいけませんね。お仕置きですよ?」
直江は先端に白いボンボンのついたケープの紐を指先でするりと解いた。
「あなたは今からもっと恥ずかしい格好になる…」
催眠術でもかけるような口調で言いながら、直江は殊更ゆっくりとした動作でベルベットのケープを高耶の肩からずり下ろしていく。
するり、とケープが素肌を滑り落ちると、怒りのためか羞恥からか小刻みに震える肩が露わになった。
シースルーストラップのかかる肩は女の華奢な肩ではない。
薄く筋肉のついた肩、二の腕。浮き出た鎖骨、喉仏。
改めてその異様な風体に高耶は耳まで赤く染め上げる。
「どうしたんですか? 音を上げるのはまだ早いですよ」
直江の手がいやにこなれた手つきでストラップを外した。
「不思議ですね。こんな服を着ていると、このぺたんこの胸が妙にいやらしく見える。豊満な女性の乳房よりよっぽどいやらしい。アンバランスさはエロチシズムの極意なのかもしれませんね」
言いながら、直江の両手がチューブトップを少しだけずり下げる。
胸の突起が白いファーの縁取りからゆっくりと顔を出した。
「ほら、高耶さん。男の乳首もこう見るといやらしく見えませんか?」
「んなこと…オレに、聞くなっ」
ふふ、と小さく笑い、直江は「そうですね、ここに直接聞いた方がいいらしい」と呟くと、高耶の突起を人差し指と中指の間に挟み、軽く摘み上げた。
「まだろくに弄ってないのに、もうこんなに固くしこってる…。こんな格好で感じているなんて、あなたのここは嘘をつけないらしい」
直江が二本の指先に交互に力を入れると、小さな突起が右へ左へと弄ばれる。
「や…めろ、そんなに弄ったら…」
「弄ったら、何ですか?」
高耶の息遣いが乱れ始める。
直江はもう片方の手で高耶の太腿を撫で回した。
「女になった気分ですか?」
唇で耳を食むようにしながら、直江が湿った息を吹きかけてくる。
「オ、レは…女じゃねえっ」
反論するものの、実際、こんな姿で後ろから抱え込まれ、胸を弄られていると、自分が本当に女になって男に陵辱されているような気がしてしまう。
「私は今、あなたを女のように犯したくてたまらない気分ですよ」
「いつもやってるだろ」というツッコミが喉まで出かかった時、隙をついたように直江の右手がミニドレスの裾から忍び込み、高耶の下着をあっという間に剥ぎ取ってしまった。
「こんな無粋なものつけてちゃいけませんよ」
そう言って、高耶の手の届かないところへぽんと放り投げる。
「あ、ばかっ…」
スカートというのはどうもスースーして無防備でいけない。
おまけにこの短さだ。
ともすると股間のものがちらちら見えそうで、高耶は懸命に裾を引っ張って伸ばそうとする。が…
「何やってるんですか」
と、呆気なく直江の腕に押さえ込まれ、両手を拘束されてしまった。
「あなたのそこならもう細部まで思い出せるほど見尽くしているのに、今更私に見られるのが恥ずかしいんですか?」
確かにその通りなのだが、こんなスカートの中から一物を晒すのは、最後の自尊心が許さない。
「やるんなら…全部脱がしてからに、してくれよ…お前の望み通り、着たんだから、もういいだろ…」
せめてもの譲歩のつもりで言ったが、あえなく却下された。
「そんなこと望んでいないくせに。あなただって本当はこの卑猥な格好でもっと恥ずかしいことをしたいんでしょう? 俺にめちゃくちゃにされたいんでしょう? さあ、次はどうされたいか、言ってごらんなさい」
抗うように首を左右に振り続けていると、直江が高耶を押さえ込んだまま膝を使って高耶の両腿を徐々に割り広げ始めた。
「や、やめっ…」
はしたなく脚を広げる鏡の中の自分から目を逸らそうとすると、直江にまた顎を掴まれた。
「ちゃんと見て。ほら、あなたの恥ずかしいところが見えてきましたよ」
超ミニ丈のスカートは、少し脚を広げただけでたやすくあられもない部分が露出する。
高耶は羞恥のあまり小さく呻いた。
「こんな格好しててもやっぱりあなたはオスですね。ちゃんとお××ぽがついている」
わかりきったことをわざわざ口にするいやらしい男を鏡越しに睨みつけるが、こんな格好では凄みが利くわけもない。
赤いドレスから乳首を覗かせ、脚を広げて局所を曝け出している、こんな変態じみた格好では…。
「柔らかそうな双玉も、男を受け入れて悦ぶあなたのはしたない穴も全部丸見えですよ」
「…頼むからっ、もうこのドレス、脱がしてくれよ」
「あなたはいつも口ばっかり。ご覧なさい。どうやらあなたのペニスはこの格好が気に入ったようですね」
嫌がる頭とは裏腹に、高耶の一物は確かにじわりと熱を帯びてきていた。
そこが充血していく感覚に、高耶は為す術もなく唇を噛む。
「そう言っている間にも徐々に大きくなってきている…。ほら、もう少しで水平になりますよ…」
自分のものなのに、自分の意思ではどうにもできない。
勝手に膨れて、勃ち上がってくる。
「ああ、とうとう上を向いてきましたね」
直江は鏡の中を凝視しながら、ふふ、と愉しそうに笑う。
「あなたはやっぱり好き者だ。こんな姿にさせられて、お××ぽをおっ勃てているなんて、とんだ変態だ」
言い返してやることもできず、ただ顔を横に背けていると、左耳に直江の舌が侵入してきた。
「何を耐えているんですか? もっと素直に感じて、強請っていいんですよ?」
蠱惑的な囁きが高耶の脳細胞を浸食していく。
クチュッという濡れた音を立てては器用に動き回る舌が高耶の耳を隈なく舐め尽くす。
「ン…ハアッ」
眉間に深く皺を刻みながら高耶がとうとう甘い声を上げた。
「そう。好きなだけ、乱れればいい…」
しどけなく力の抜け始めた高耶の身体を背後からやんわり抱き止め、直江は再び高耶の胸の飾りに手を伸ばす。
「や…や、だ…」
どういうわけか、今日はやけに胸が敏感になっているようだ。
直江の指先にそこを摘まれる度、背筋を切ない衝動が這い上がってくる。
高耶は身を捩じらせて、処女のように恥じらい抗う。
「いやじゃないでしょう? ペニスをこんなにしておいて、一体何をいやがっているんですか?」
高耶の股間には既に立派な形の陰茎が屹立していた。
鏡の中の自分は着乱れた姿で裸の腰を突き出し、どう見ても淫行を催促しているようにしか見えない。
そして、次の瞬間、耳たぶを甘噛みされると、ビクリと高耶の腰が跳ね、張り詰めたものの先端から、堪えきれず先走りの液がつつ、と竿を伝って流れ落ちた。
「な…なお、えっ」
「何ですか?」
意地悪な男は、執拗に胸の突起ばかり弄り回している。
「も、もう…」
「もう?」
「さ、触って、くれ…よ…」
直江は耳元で「御意」と答えると、右手の人差し指を高耶の濡れた先端へと押し当てた。
「フッ、ウッ…」
最も敏感な場所をピンポイントで触られ、高耶は思わず苦しげな声を漏らす。
直江は構わず指先でそこに何度も小さく円を描く。
「ア、アッ、アアッ…」
「高耶さんのここ、すごくぬるぬるしてますね。いやらしい液がたくさん出てる」
今度は溝を割るように強くなぞられ、高耶はヒッと喉を鳴らした。
「もう幾筋も液の伝った跡がある。下の袋までべとべとになってますよ」
言いながら直江はひたすら先端だけを撫で続ける。
もっと強く握り込んで扱いてほしくて、高耶は気が狂いそうだ。
「そ、そうじゃ、なくて…」
堪えきれず自分のものへと伸ばした手を直江に易々と払われた。
「だめですよ。あなたのここは私のものです。あなた自身にも触らせません。その代わりもっといいところを触ってあげますよ」
直江は高耶の脚を更に大きく広げるように抱え直すと、無防備に晒された蕾へと長い中指をつぷりと突き立てた。
「アァッ!」
背後の直江に深くしなだれかかり、高耶は鋭い嬌声を上げた。
「あんまり大きな声を上げると、リビングで寝ている晴家たちが起きてしまいますよ」
高耶は「うっ」と唸って唇を噛むが、直江の指がゆるゆると蠢き出すと、口端からくぐもった喘ぎが漏れ出て止められない。
滑り落ちた先走りの液でしとどに濡らされた秘所は直江の節ばった指を難なく呑み込み、貪欲に絡め取ろうとしているのが自分でもわかる。
こうなるともう恥も外聞もなかった。
完全に箍が外れた。
鼻孔からひどくセクシーな声を響かせながら、高耶は潤んだ瞳で鏡越しに直江を見つめる。
それに気づいた直江が一瞬、息を呑んだ。
「高耶、さん…?」
口もとに微かな笑みを浮かべる高耶は、卑猥な動きで自ら腰を使い始めた。
直江の指を下の口で咥えながら、娼婦のように貪婪に快楽を追い求める。
「アッ、アッ、も…イ、イク…イッちまう!」
その刹那、高耶の先端から白く濁った液体が放たれ、ピシャッと目の前の鏡にぶち当たった。
高耶は脱力し、胸を大きく上下させながら、薄目を開けて自分の精液で汚れた鏡面と、そこに映る自分のふしだらな姿をぼんやりと眺める。
「後ろに指を突っ込んだだけで、自分で腰を振ってイクなんて、今夜のあなたはいつにも増して淫らですね」
もはや感覚が麻痺してしまったのか、揶揄されても何とも思わない。
それどころか、一度イッても興奮はまったく醒めそうになく、高耶は鏡の中の直江を熱く見つめ返す。
「な、おえ…」
誘惑するようにその名を口にすると、高耶は再び直江の指を締め付け、腰を揺らし出した。
「なおえっ…もっと…」
不自然な体勢で必死に身体を動かす高耶の肌は次第に汗ばんでいく。
こめかみを一筋、汗が伝うと、直江はそれを飢えた獣のように吸い取った。
「本当に、淫らな人だ」
ただのベッドトークではなく、心から感服したように直江が呟く。
「聖夜と言いながら、この夜に一体どれだけの男女が動物的な行為に耽っているかしれない。けれど、きっと今、あなたほど淫らで背徳的な人間はいない。あなたは今夜、世界中の誰よりも罪深く、男を誘って止まない堕天使だ」
直江はグズグズに蕩けた高耶の内側から指を引き抜いた。
「そんなあなたにはこんな指だけじゃ足りないでしょう? 俺の凶暴な雄で滅茶苦茶にしてあげる。失神するまで突いてあげる」
言いながら直江は鮮やかな手つきでスラックスのジッパーをずり下げ、聳え立つ一物を中から取り出すと、高耶の太腿を両手で抱え上げ、先端を高耶の入口に宛がった。
「ほら、見て下さい、高耶さん。今からあなたの中に入りますよ」
わざと鏡に映るような角度に脚を持ち上げながら、直江が己を高耶の中にめり込ませる。
「ンッ…アッ、ハアァッ!」
心なしかいつもより質量の増した直江に引き裂かれ、高耶はまた大きな声を上げそうになり、慌てて自分の口を手で押さえた。
「まだ、半分も入っていませんよ…高耶さん…もっと奥までいきますよ? ほら、少しずつあなたの中に入っていく…」
「フッ、ンッ、ンンッ!」
「ああ、あなたのいやらしい肉襞はとっても気持ちがいいですよ、高耶さん」
快感の余り、高耶の顎がガクガクと震え出す。
根元まで挿入したかと思ったら、息をつく間もなく、直江はゆるゆると抽挿を始めた。
殊更ゆっくり、ぎりぎりまで引き抜くと、再び肉を割り、じっくり味わうようにして最奥まで穿っていく。
「アッ、アッ、なお、えっ…アッ、イ、イイ…そこ、イイ…」
背を弓のようにしならせて、高耶が悶え狂う。
「なおえっ、もっと…もっと突いてっ…お前のこれ…オレの中で、溶かしちまいたいっ!」
髪を振り乱し、高耶は正気なら決して言わないようなことを口走る。
「あなたに溶かされるなら本望ですよ。…今夜は何度でも、ミルクタンクが空っぽになるまでイカせてあげる。男のくせに、こんなドレスを身につけて乱れるあなたの姿態は、予想以上にいやらしかったですよ。やっぱり買って正解でした」
直江の言葉はもう高耶の耳には届いていないようだった。
ただ半開きの口から言葉にならない喘ぎと透明な唾液を滴らせ、激しく打ちつけてくる直江の下半身を受け止めるだけで精一杯だった。
イブの夜は、獣たちの湿った吐息と肌の擦れ合う音にかき乱されながら熱狂のままに更けていく。
「メリークリスマス、高耶さん」
ふと目を覚ますと、ベッドの脇にしゃがみ込む直江がそう告げた。
一体何時間、あの狂気じみた行為に溺れていたのかわからないが、外はまだ暗いままだ。
時計を見ると午前4時だった。今日はクリスマスだ。
あのサンタドレスはいつの間にか脱がされ、高耶は全裸のままベッドに横になっていた。
タオルケットが腰にかけられているだけだが、暖房の効いた部屋の中は寒くない。
「何やってんだ、お前?」
直江が自分の手首を取って何かを取り付けようとしているのに気づき、高耶が問いかけた。
「見つかってしまいましたね」
と直江は苦笑する。
「サンタクロースがあなたにプレゼントを持って来たんですよ」
「プレゼントって…あのサンタドレス…」
「あれは冗談です。本当のプレゼントはこっち…」
そう言って、高耶の左手首にパチンと何か金属のベルトをはめた。
起き上がってよく見れば、ブランドものらしい高級腕時計だ。
「あ…」
「とてもよく似合ってますよ」
洗練されたフォルムはごつ過ぎず、女々しくもなく、スタイリッシュで上品な雰囲気を醸し出している。
「こんな高そうなもの…」
「あなたも、もうこれくらいのものを身に着けてもいい年頃です。それに、いい物を身につけることによって、自分の意識も変わっていくものです。…あなたの腕に刻まれる時がいつも栄光に満ちていますように…」
直江はクリスタルの文字盤に軽く唇をつけた。
「直江…」
「どの瞬間も、私はあなたとともにあることを忘れないで下さい」
「…ありがとう、直江」
こんな素敵なプレゼントをちゃんと用意してくれていたことに、高耶は胸の奥がじわりと熱くなった。
そんな高耶の隣に腰を下ろし、直江が優しく肩を抱いてくる。
「しかし、全裸に腕時計だけというのも妙にセクシーなものですね」
さっきの情事の余韻が残る甘いヴォイスで性懲りもなく囁いてくる男を、高耶は「言ってろ、ばか」と軽く詰ると、少し照れながら自分から唇を寄せた…。
●あとがき●
ひたすらほのぼのしたクリスマスを書きたい…そう願っていたはずなのに、終わってみればただのエロスマスになってました(号泣)。
まったく、どうかしてるのは、ここの管理人の方ですね。